カスタマーエクスペリエンス(顧客体験、CX)とは?顧客体験の調査方法から活用事例まで
「カスタマー・エクスペリエンス(CX、顧客体験)」とは、顧客がサービスや商品を通して受け取る「体験」のことを指します。
これまでは、企業がどの様なサービスを顧客に提供したかがマーケティングの中心に置かれていましたが、近年ではカスタマー・エクスペリエンスのように、「顧客視点」でサービスを捉え直すことが企業の重要な戦略に置かれています。
本記事では、カスタマー・エクスペリエンスの考え方や事例についてご紹介します。

カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験、CX)とは?
身の回りには、様々な企業が提供する商品やサービスがあふれています。
その中で日々私たちは商品やサービスを選び、利用していますが、そこには様々な基準があります。
「安い」「機能が優れている」「便利」。こうした商品やサービス自体の特性も選択する基準の一つですが、必ずしもこうしたわかりやすい情報だけで決定しているわけでは有りません。
例えば、「あのブランドが好き」「接客が心地よい」「保証がしっかりしていて安心」など、商品以外から感じるメリットも商品を選択する基準になりえます。
むしろ、価格が低く便利な商品があふれている現代においては、こうしたブランドに対する信頼や愛着(ロイヤルティ)こそが、商品を選ぶ・使い続ける大きな要因になってきています。
カスタマー・エクスペリエンス(CX)とは、商品・サービス単体の安さ・便利さだけでなく、接客やアフターサポートまで含めた様々な体験から、顧客が感じる価値やメリットのことを指します。そのため、顧客体験価値と言い換えられることもあります。
なぜカスタマー・エクスペリエンス(CX)が重要なのか?
商品の安さや便利さだけでなく、その他の体験によって顧客が感じるメリットこそが、顧客の期待を超え、顧客をファンにすることができます。
これは「頭の満足」だけではなく、「心の満足」を満たすことができるからです。
顧客の満足には、実は2つのタイプがあると考えられています。
頭の満足:安さや便利さ近さなど、合理的な基準・判断によって満たされる満足
心の満足:信頼や愛着・安心など、感情的な基準・判断によって満たされる満足
ある脳の活動を観察した研究では、「心で満足している」顧客のほうが、頭で満足している顧客よりもはるかに企業利益に貢献していることが示されています。
大手スーパーマーケットのアンケートで「大変満足」と回答した人を、「頭で満足」している人と「心で満足」している人に分類し、それぞれの利用回数や購買金額を比較しました。
すると下図のように、頭で満足している人は「普通・不満」と答えた人と来店回数や購買金額にほとんど差がないことがわかりました(実際には下回っていました)。
一方で、心で満足している人は、来店回数・購買金額ともに抜きん出ています。
つまり、頭で満足している顧客はこのスーパーを選び続けている状態ではなく、心で満足している顧客のみが、このスーパーのファンになっていると考えることができます。
安さや便利さから生まれる頭の満足は、得てして「期待通りの商品」になりがちです。身の回りも「特に不満はないけれど、一回しか使ったことのない商品・サービス」は多くあるのではないでしょうか。
カスタマー・エクスペリエンスを向上させることで、「期待を超える商品・サービス」に変革していくことが、心の満足を満たし、顧客とより良い関係を構築することができるのです。
カスタマー・エクスペリエンス(CX)の中でも、特に重要な体験が存在する
期待を超える顧客体験によってファンを増やすためには、どのような体験を提供すればよいのでしょうか。
それは、どのような商品やサービスを提供しているかによって、全く異なります。
すべての体験を一様に改善すればいい、というものではありません。
ファーストフードとレストランでの違いを例にとってみましょう。
ファーストフードは、商品の安さ・店舗の立地・商品提供のスピードが重視される一方で、レストランでは味や接客対応・商品知識・外観や内装のデザインが重視されがちです。
このように、同じ飲食サービスにおいても、顧客の期待が異なれば、顧客にとって重要な体験も同様ではないのです。
カスタマー・エクスペリエンス向上において重要な体験を見極めずに、「使いやすくなるから」という理由だけで体験改善をしても、顧客の評価が高くならないのはこのためです。
さらに踏み込めば、同じ業界のレストランであっても、ブランドごとに顧客の期待が異なるため、重要な体験が一致しないケースも多々あります。
重要な顧客体験を見出す方法とは?なぜカスタマー・エクスペリエンス(CX)調査が重要なのか?
それでは自社の顧客にとって、何が重要な体験なのでしょうか。
それは「実際の顧客に聞いてみる」ことが最も正確に導く方法です。
362社を対象に行なった調査では、「私たちの会社は優れた顧客体験を提供している」と回答した方が80%もいましたが、顧客が「この企業は優れた顧客体験を提供している」と回答したのは、たった8%しかいませんでした。
つまり、顧客が受け取っているメリットや価値は顧客にしかわからず、企業は良い顧客体験を提供している「つもり」になりがちです。
顧客への調査を行うことで、顧客がどれだけ心で満足しているのかを把握することができます。
また顧客調査はカスタマージャーニーに沿って質問を正しく設計し、データ分析を行うことで「どの体験が重要で、改善効果が大きいのか」を把握することが可能です。
多くの企業ですでに顧客調査やお客様アンケートが実施されていますが、顧客の声の中に顧客体験向上のヒントが必ず隠されているはずです。
カスタマー・エクスペリエンス(CX)の計測の仕方
現在、自社がどの程度のカスタマー・エクスペリエンスを提供できているかを、顧客にヒアリングする際、どのような質問を投げかければよいのでしょうか。
一般的な顧客調査に用いられるのは、「顧客満足度・CS(Customer Satisfaction)」と呼ばれる指標で、「あなたは当社のサービス・商品にどの程度満足していますか?」と質問し、「大変満足・満足・普通・不満・大変不満」などから選択をしてもらいます。
しかし、この指標は2つの点でカスタマー・エクスペリエンスの計測には不向きです。
・「大変満足」と回答した人の中には、心で満足している人と頭で満足にしている人がいるため、心の満足をどの程度満たせているかがわからない
・日本人は世界的にも「直接的な批判を避ける」文化があるため、そもそも不満・大変不満という意見が出にくい。その結果、満足と回答した人がリピーターにならない事象が多数発生してしまう
そこで、顧客がサービスや商品に対して抱く信頼度や愛着度(ロイヤルティ)を計測する指標として開発されたものが「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」という指標です。
NPSの特徴は大きく3つあります。
・「あなたは当社のサービス・商品をどの程度他の人にすすめたいと思いますか?」と質問するため、本音が引き出しやすい
・多くの企業で、NPS質問の点数(おすすめ度)が高い顧客ほど、利用頻度や購買金額が高くなるという実証データがあり、本当のファンを見つけやすい
・点数に応じて「推奨者」と「批判者」を分類するため、ファンになるポイントや不満が発生しやすいポイントを分けて考えることができる
その他にもCES(カスタマー・エフォート・スコア)やリピート意向などもありますが、カスタマー・エクスペリエンスの計測やファンの度合いを調査する場合には、NPSがおすすめです。
NPSを活用したカスタマー・エクスペリエンス改善事例
NPSを用いてカスタマー・エクスペリエンスを改善した「ヤクルト球団」の事例をご紹介します。
ヤクルト球団はファンクラブ(スワローズクルー)を運営しており、ファンクラブにより多くの方に入会してもらいたいと考えていました。
ファンを重視する当球団では、NPSを活用する以前も顧客満足度調査を実施していたのですが、何が「ファンクラブ会員にとって重要な体験なのか」が明確になっておらず、効果的な施策を打ち出せない、という課題感を抱えていました。
そこで、「スワローズクルーに入会することを、親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいと思いますか?」という質問をベースに、NPS調査を実施することにしました。
そうすると、以下の3つの課題が見えてきました。
・入会時にもらえる特典やグッズが会員にとって重要
・入会後には、「選手と触れ合える機会」が重要
・本拠地(神宮)から遠い会員は、会員になってから受ける体験価値が低い
調査の結果を受けて、ヤクルト球団では様々な施策を実施しました。
・入会時にもらえる特典に関しては、これまで「ゴールド会員の特典は〇〇」と決まっていたものを、複数グッズの中から選択できるように変更し、入会時の体験価値を向上
・選手がクラブハウスから球場に移動する間に、選手と一緒に写真が取れるイベントを実施し、より非日常感を味わってもらえる施策を実施
・地方の会員によりメリットが出るよう、地方限定グッズやユニフォームを開発し、販売
その結果、NPSの点数が大幅に向上しただけでなく、ファンクラブ会員数は2.5倍(※)に成長し、より愛着の強い「プラチナ会員」の数も急増することに成功しました。
※2年ごとの調査結果(2012〜2014年、2014〜2016年)を基に算出
このように、カスタマー・エクスペリエンスとは顧客の声に真摯に耳を傾け、顧客が重視する体験に集中して取り組むことで、大きな成果を上げることができます。
NPSや顧客体験(CX)に関する資料をダウンロード
以下の資料では、カスタマー・エクスペリエンスの計測に必要なNPSについて解説しています。詳細は資料をダウンロードしてご覧ください。
また、Emotion Techでは、専任のコンサルタントが導入のご相談から改善策の提案まで、プロジェクト伴走型でトータルソリューションを提供しています。まずは無料でお気軽にお問い合わせください。
- ネット・プロモーター® 、ネット・プロモーター・システム® 、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
- eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。
- 関連記事